頭を使って練習する事とは?
今の日本長距離界全体に言える事ですが、もう少し頭を使って練習を考えるべきであり、昨今の青山学院大学が駅伝を連覇しているのには、新しい事を取り込んでいる事が要因なのではと感じています。
近年においては、とにかく走り込めば良いという昔ながらの根性論で練習をする風潮も変わりつつはあります。 強豪校に属する長距離ランナーであれば一度はコーチなどに頭を使って練習しろと言われたことがあるのではないでしょうか?
では、実際に頭を使って練習するとはどういう事なのか…
多くの選手は、自分が今やっているトレーニングの目的はなんなのか?今日の練習で意識することはなんなのか?といったマクロな視点でしか考えていないと思います。
勿論これはとても大切なことで、それすら考えず指導者が提示する練習メニューに実直に取り組み続ける選手もいますし、上からの命令に従う事を強要されてきた日本の古き風習の弊害もあるのでしょう。
マクロな視点では、意識する対象が練習に対してのみであるか、あるいはもう少し踏み込んで練習の中での意識といったところです。
頭を使って練習をすることに対して、更に踏み込んで考えると、自分の一挙手一投足がどんな働きをしていて、どういった動きに繋がっているのかまで考える必要があります。
こう言うと、練習中にそんな細かな事に意識が向けられないと思う方もいると思いますが、競歩選手であれば少なからず、自分のフォームについて考え、どうやったら理想のフォームを手に入れられるか考えながら日々練習に取り組んでいるはずです。
更に競歩でトップに立つ人はこの意識していることが無意識の中に刷り込まれる程に繰り返し、基本的なドリルやフォームチェックを行っています。
筆者が現役の時には、まず人体の構造を理解するところから始め、骨盤がどんな動きをする部位なのか、骨盤を動かす筋肉は?それを支える筋肉は?骨盤を動かすと連動してどこがどのような動きをするのか?…といった整体学も少し学びながら日々練習していました。
競歩のトップ選手でも最初は皆、ドリルやゆっくり歩くといった、動きの中でも考える余裕が十分にある状態で意識を刷り込ませるような”真の意味で頭を使った練習”をしています。
そう考えると競歩選手はまだしも、長距離ランナーでは心拍数を上げて激しい練習をすることばかりに目がいきがちです。
いくら激しい練習をしても記録が一向に記録が伸びない選手は一度、激しい練習をすることを諦め、自分の動きのチェック、体がどのように動いているのかといった事を深掘りする期間を持ってみてはいかがでしょうか?
フォームの型について
現役時代よく考えていたのが選手によって歩きのフォームにも型があるなという事。
様々な選手を観察していると一流選手になるとだいたい二つのフォームに分けられてきます。
①1つ目が、これぞ競歩!という歩型で、腕を後ろに大きく引いて、ストライドをなるべく広くとった型。上下動の少ないフォームのため違反を取られる可能性も低く、足が前に振り出されているように見えます。
この歩型で競歩初心者にありがちなのは、骨盤を低い位置に保ち、足を前に出してブレーキをかけながら歩いてしまい、骨盤と連動出来ていないにも関わらず無意味に腕を大きく振ってしまう人が多いです。
競歩初心者がまず初めに意識するであろう競歩の形ではあるが、一流選手のものとは似て非なる歩型ともいえます。(後に詳細を記述)
②2つ目が、腕をあまり大きくは振りすぎず、比較的コンパクトにストライドを刻む型。(コンパクトと言っても一流選手は限界ストライドの6~7割程度では歩いている)
1番目の歩型と比較して、少し走りの要素が加わり、骨盤はやや前傾気味で、足を後ろで捌くように歩きます。
走りの要素が加わるため、スピードは出やすくなるが、基礎が固まってないうちにこの歩き方にのめり込むと、ストライドが狭くなり、違反も取られやすくなってしまいます。
昨今、学生の10000mWなどではスピード化が激しいため、基礎が安定する前にスピードを求めてしまう環境のため、このような歩型が増えているようにも感じます。
どちらが良い悪いとは一概には言えないが、やはりスピードを追い求めると大体の選手は2番目の型に落ち着いてしまっているように感じます。
おそらく、1番目のフォームで歩いている一流選手はひと握りしかいなく、代表的なのは、20km競歩世界記録保持者の鈴木雄介選手くらいではないかと感じます。
準一流から日本トップクラスまで伸び続けた選手を見ていると、歩型の変遷としてはまず、誰しもが通る①の歩型で、競歩を歩きの延長線上として考え5000mを27分~22分半くらいまで歩く選手が多く、そこから②の歩型へと進化すると22分~20分台ぐらいまで記録が伸びているように感じます。
しかし、ここで①の時期にドリルやストロールなどでどれだけ基礎が身についているかが重要になって来ます。
①の時期で大きなフォームを身に着けなかった選手は、記録に低迷があったり、スピードを求めすぎて失格が続く選手になってしまいます。
現に準一流レベルの大会の学生インカレなどで失格になる選手は多いです。
そして、②の歩型の壁を越え、自分の歩型を見つめ続けた選手が最終的にはまた①のフォームへと辿り着きます。
しかし、ここまで来た選手のフォームは初心者が考える競歩フォームとは似て非なるものとなっており、①と②の歩型のハイブリットともいえ、骨盤はやや前傾気味で高い位置に保たれ、前に出した足の位置に重心がそのまま乗っていくようなフォームになります。
そのため、足を後ろで捌き続けているにも関わらず、走りのようには見えず、後ろにストライドが伸び続けるような綺麗なフォームに見えます。
このレベルまで来ると、おそらく日本トップ、世界でも通用するレベルにまで達するが、現状の日本でここまで達しているのは片手ほどしかいないのではないかと感じます。(歩型には骨格なども関係するため一概に良し悪しは決められないが)
昨今の国内レースのスピード化は高校の大会にも波及してきているが、
今、高校生であるジュニアアスリート選手にはスピードよりも、先の事を見据え、歩型の安定性と自分の歩きを見つめられる目を養って欲しいと考えます。
最後に筆者が現役時代参考にしていた鈴木雄介選手のレース動画をどうぞ。
ドリルの重要性
学生の競技者に多いのが競歩においてドリルの重要性を蔑ろにしている競技者が多いという事。
10000mを45~41分台くらいで歩ける選手でもドリルの動きが全くできず、フォームに安定性のない選手は多くいます。(さすがに40分台になると安定している選手が多い)
そういう選手は基本的にスピードを追い求める傾向が強く、20kmのレース等になると途端に崩れだす選手も多いです。
競歩という競技は頑張ればある程度は早く歩けてしまう可能性を持った競技なので、フォームが安定していないのにスピードが出せてしまう選手というのは「走り」の動きが歩きの中に加わっています。そのため、違反も取られやすく、長い距離では無理が効かないという事になるのでしょう。
本来、競歩のドリルはスピードを身に着ける前に極めるべき動きであり、筆者が現役時代の時には毎日2時間ひたすらドリルしかやらない時期もありました。
誤魔化しでスピード練習ができるようになってから毎日ドリルに何時間も時間を掛けるというのは、プロの野球選手が素振りのみの練習をもう一度一からやり直すような感覚で、モチベーション的にも、練習の強度的にも不安が多くなり、なかなか途中から路線変更が効かなくなってしまいます。
長距離種目では距離積んでなんぼ、ペース走やスピードを上げたトレーニングが重視されますが、競歩でそれと同じようにメニューを組み立てていたのでは、最終的に良い記録は出ません。
ゆっくり歩けない選手は速くも歩けないという事は一流の競歩選手であればみな口を揃えて言います。
今はストロールのような練習しかできないジュニアアスリートや、失格が多く記録が出ないような選手は練習を途切れさせてでもドリルに目を向けて欲しいと思います。